「毒ヘパリン」(16)— FDA、汚染物質を同定(WSJ、3月20日付)

     THE WALL STREET JOURNAL March 20, 2008
     FDA Identifies Contaminant in Heparin Batches by Anna Wilde Mathews & Thomas M. Burton


回収された抗血液凝固薬ヘパリンから検出された汚染物質は、ヘパリンによく似た物質に
故意に改変された物質であるとした米国食品医薬品局(FDA)の発表は、FDA 自身に
プレッシャーを与え、急速に伸張する中国製医薬製品に対する医薬品企業の監視を
一層厳しいものにさせるだろう。


3月19日 FDA は、中国製有効成分によるヘパリンから検出された汚染物質が、動物由来の、
特に軟骨由来の安価で広汎に利用される物質から生成された化合物であるようだと発表した。


FDA はまた、その汚染物質「過硫酸化コンドロイチン硫酸」が、この問題に関係する薬品を
回収したバクスター・インターナショナル製のヘパリンによるアレルギー性副作用や
死亡例の原因であるかどうかは、明確でないとした。
この汚染物質は、副作用反応を示した患者に投与されたヘパリンから検出されている。


FDA 医薬品センター長のジャネット・ウッドコックは、この物質が
どのようにヘパリンに混入したかは分からない、と言う。
「ヘパリンへの混入が事故なのか故意によるものなのかは、
どちらの可能性も否定も肯定もできません」


しかし彼女は、硫酸塩を加えることで故意に作られたように思えるとも述べた。
「わたしたちの知る限り、この合成物は自然発生しませんし、
豚から直接抽出されるものでもありません」
ヘパリンは豚の腸に由来する。


FDA 当局者は、コンドロイチン硫酸が「豊富で安価」であり、それに硫酸塩を
過剰に加える化学処理も「それほど費用のかかるものではない」ことに注意を促す。
彼はまた、その物質は実際に使われているヘパリンよりも安価だろう、しかし
「硫酸塩を加えてからのコストを概算する、いかなるデータもない」と言う。
ウッドコック・センター長によれば、バクスターから提出された有効成分の
サンプルの一部には、2%から50%の汚染物質が含まれていた。
(註:汚染物質の含有量は、3月5日の FDA MEDIA BRIEFING では5〜20%となっている)


学界の専門家は、硫酸塩を加える処理には、少なくとも基本的な化学工場設備が
必要なはずだと言う。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校のジアン・リウ准教授は「過剰に硫酸塩を
加えることで、コンドロイチン硫酸をヘパリンに、より似せることができます。
そうした“疑似ヘパリン”は本当のヘパリンとひと固まりになって、
最も標準的な処理では分離することが難しくなります」と述べた。


この発表に、議会はすぐさま懸念を示している。
ミシガン州選出のジョン・ディンゲル、バート・ステュパック両民主党下院議員は、
来月、ヘパリン問題に関するヒアリングを行うと述べた。
「故意の改竄によって米国人が生命を失い、重く傷つけられることは、到底
受け入れ難い」(エドワード・ケネディ民主党上院議員マサチューセッツ州選出)
「調査結果は、FDA による強力な国外検査プログラムが必要だということの
根拠を示した」(チャールズ・グラスリー共和党上院議員アイオワ州選出)


昨年 FDA は、中国から輸入される歯磨きをすべて、テストするために
入管前でストップさせた。
パナマや他の国で、不凍液などに用いられる化学物質「ジエチレングリコール」が
歯磨き中から検出されたとの報告を受けてのことだ。
さらに、いくつかのペットフードに使われた中国産小麦粉からは、
工業用化成物「メラミン」の含有が発覚した。
これはペットを病気や死に追いやった。


国務省は最近、FDA が中国に8人のスタッフを置くことを許可したが、
その実施に対する中国政府による認可は、いまも保留されたままだ。
米国市場向けに医薬品または医薬品有効成分を生産している中国の施設は、
2007年度には714件に上った。


偽薬と医薬品成分の問題は、これまでも FDA の不安を増大させてきた。
2007年度に FDA は31件の国内偽薬に対する調査結果を明らかにしたが、
それら偽薬は海外製医薬品成分との関連を指摘されている。
過去における同様の事例は、2006年に54件、2005年に32件だったが、
1997年にはわずか9件にすぎなかった。


業界団体の米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、その声明の中で以下のように述べている。
「ブランドを持つ製薬メーカーは、患者の健康保護を十分に約束するための広範で必要な
規制を確実に遵守すべく、(医薬品有効成分の)国内外工場と密接に共同する」


バクスターとそのサプライヤーであるサイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ
(SPL、ウィスコンシン州ウォナキー)は19日の共同発表で、汚染物質は、有効成分の
製造工程を担う常州 SPL(SPL と中国企業合弁会社)に粗製ヘパリンが納入される前の、
粗製ヘパリン製造工程で混入したと見られる、と述べた。
バクスターと SPL のコンサルタントは、汚染物質は豚の組織に由来するものだろうとした。


バクスター広報は、同社の調査は中国の“合同工場(consolidator)および
作業場(workshop)”に集中して行われていると述べた。
“合同工場”は、化学的な専門性において「作業場よりも設備や機能などが
いくらか上回る施設」とのことである。
バクスターによれば、SPL は3カ所の合同工場から粗製ヘパリンを
入手しているが、不純物の混入がそのうち1カ所によるのか2カ所によるのか、
あるいは3カ所すべてによるのかは明らかにしていない。


FDA はヘパリン投与後の、数百件の副作用および19件の死亡例の報告を受けている。
フランス企業パンファルマ・グループ傘下の独ロテックスメディカがドイツで
販売したヘパリンもまた回収されているが、バクスターとロテックスは、それぞれ
異なる中国サプライヤーから成分供給を受けている。


シカゴ近郊にあるロヨラ大学医療センターの病理・薬理学部長ジャウェド・ファリードは、
次のように述べる。
「この汚染物質の存在は、それがヘパリン収量のかさ上げを狙った行為であることを、
はっきりと示している」

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