「毒ヘパリン」(19)—独に続き欧州3カ国でヘパリン回収(WSJ、3月26日付)

丁・仏・伊、中国製成分に対する新たな懸念

     THE WALL STREET JOURNAL March 26, 2008
     Three More European Countries Recall Heparin
     by Jeanne Whalen, Thomas M. Burton & Anna Wilde Mathews


抗血液凝固薬ヘパリンあるいはその成分の回収が新たな地域——フランス、イタリア、
デンマークの欧州3カ国——まで拡大し、信頼されていたはずのサプライヤーさえもが
汚染問題に侵されているのではないか、という疑念が浮上してきた。


豚の腸由来のヘパリンの新たな回収の動きは、米国内に潜在的にあった不安を呼び覚ます。
米国内で外科手術および腎臓透析に用いられる大用量ヘパリンの、現在唯一の
供給元である APP 製薬に成分を供給する中国の深セン市海普端薬業有限公司
深センヘパリンク)はまた、イタリアのオポクリンにも成分を供給していた。
25日オポクリンは、同社が深センヘパリンクから購入した成分が
部分的に汚染されていることが発覚したと明らかにした。


APP(イリノイ州シャウムバーグ)広報担当メイリ・バーグマンが同日発表した
ところによれば、イタリアで問題となっているヘパリンの成分は APP のものとは
違う屠畜場を通して入手されたものであり、APP 製ヘパリンは同社独自および
米国食品医薬品局FDA)による一貫した汚染度テストを受けている。


深センヘパリンクのコメントは得られていない。
WSJ の深センヘパリンク取材記事参照)


2月に米国で、初めて汚染ヘパリンの問題が明らかとなって、医薬品やその他の製品の、
グローバルなサプライチェーンの安全性に対する疑念がわき起こっている。
バクスター・インターナショナルとドイツの企業が、汚染が判明してヘパリンを
回収したが、ドイツ当局とバクスターはともに、問題のヘパリンの成分を製造した
中国に汚染の原因がある可能性を指摘した。
連邦議会では海外医薬品メーカーに対する調査の強化を求める議員立法
取り沙汰されているが、この動きは中国が牽引したと言える。


FDA は、ヘパリン投与後の、明らかにアレルギー反応に起因する死亡例を、
現在のところ19件把握しているが、そのうち何件がバクスター製ヘパリンに
関係するかは判明していない。


欧州でのヘパリンおよびヘパリン成分の回収は、当初ドイツだけのものだったが、
最近の欧州での回収の動きは、ドイツから他の3カ国へとその広がりを見せたことで、
ヘパリン問題がグローバルなものであることを示した。


今回新たに回収に動いたフランス、イタリア、デンマークでは、ヘパリン投与後の
副作用反応は報告されていない。
にもかかわらずヘパリンの最終製品および有効成分が回収される理由を、
ロンドンに本部のある欧州医薬品審査庁(European Medicines Agency、EMEA)の
広報官マーチン・ハーベイ-アルチャーチは25日、それらが確かに汚染されているか、
または汚染の疑いがあるためと説明した。


「われわれはそれが、(米国のヘパリンから検出された過硫酸化コンドロイチン硫酸と)
同じ汚染物質であると推測していますが、まだ決定的な確証を得られたわけではありません」


スクリーニングテスト(選別試験)で示された汚染物質の特性から、EMEA は
このように推測している。
EMEA はヘパリン問題に関しては FDA と密接に連絡を取り合っており、FDA
汚染スクリーニングテスト法は、すべての EU 加盟国に伝わっている、と彼は言う。


「今頃はすべての国で、それぞれ国内のヘパリンが汚染テストされているはずですよ」


欧州の回収の動きに関する質問に、FDA 医薬品センター長の
ジャネット・ウッドコックが25日、文書で回答した。


FDA は欧州各国の規制当局とコミュニケーションを取っており、
また、われわれ自身の検査も鋭意継続している」


FDA 広報官によれば、以前 FDA が APP 製ヘパリンをテストした際には、
汚染は発見されなかった。
そして APP は、米国内に流通するヘパリンの有効成分の汚染テストを
実施することを確約した。


EMEA のハーベイ-アルチャーチによれば、フランスでは
独ロテックスメディカ製ヘパリンの回収を21日に開始した。
ロテックスメディカは今月初めにドイツ市場から回収されたヘパリンの
製造企業であり、仏パンファルマ・グループの傘下にある。
ロテックスメディカのコメントは得られなかった。

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