「毒ヘパリン」(14)— FDA、水際での輸入ヘパリン検査実施へ(WSJ、3月15日付)

     THE WALL STREET JOURNAL March 15, 2008
     FDA Orders Heparin Shipments To Be Tested at the U.S. Border by Thomas M. Burton & Jennifer Corbett Dooren


米国食品医薬品局(FDA)は14日、医薬品メーカーが実施しなかった場合、
海外から輸入されるヘパリンおよび抗血液凝固薬製造用有効成分のすべてに対して、
入管前に汚染の検査を実施すると発表した。


バクスター・インターナショナル(イリノイ州ディアフィールド)が販売した
大量のヘパリンから2週間前に検出された汚染物質「ヘパリンに似た分子」の、
特質と生成源の特定に、FDA はいまだ至っていない。
それらヘパリンは昨年12月以降の、数百件に上る全米規模での
アレルギー性副作用の報告を受けて回収されたものだ。
中国のプラントが生産した成分が汚染されていたことから、米国が製品を
輸入している多くの中国医薬品メーカーが FDA の検査を受けていないことに、
連邦議会は非常な警戒感を持った。


14日、リポーターとの電話会議において FDA は、これまで FDA中国当局
いずれもが、抗凝血剤ヘパリン製造のために中国人労働者が豚の腸を処理している、
実質的に無秩序状態にある無数の作業場や工場を検査するかどうか、
決めていなかったことを明かした。


バクスターに成分を供給するサイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ
(SPL、ウィスコンシン州ウォナキー)を含む米国メーカーに有効成分を供給する
中国サプライヤーのいくつかは、これまで医薬品に用いられる未精製のヘパリンを、
少なくとも部分的にこうした無秩序な施設から入手してきた。


バクスターが販売した、心臓外科手術、腎臓透析、アフェレシス(免疫不全の
治療法)に用いられる大量のヘパリンによる数百件のアレルギー性副作用の調査を
踏まえて、FDA は14日、輸入ヘパリンに対する警戒感をはっきりと示した。
バクスターは、最近数週間の4件の死亡例は、少なくとも部分的に、
ヘパリンによる副作用に関係すると見られると発表した。
FDA は、過去1年以上の期間にわたる19件の死亡例が、同様のアレルギー性副作用に
関係すると見られるものの、バクスター製品によるものかどうかは
断定できないとした。


今月初め FDA は、回収された大量のヘパリンから、ヘパリンに似た
不可解な汚染物質が検出されたと発表した。
バクスターは14日の発表では、汚染物質は豚由来のものと見られるとしている。
FDA が最近 SPL から入手した28サンプルのうち、20サンプルから汚染物質が検出された。


FDA 医薬品センター長ジャネット・ウッドコックは、2月28日以降新たな死亡例の
報告は受けておらず、アレルギー性副作用の報告が2件あったのみだと述べた。
バクスターの競合であり、現在最大の米国内ヘパリン供給者である APP ファーマシーズは、
同社製ヘパリンにはアレルギー性副作用は見られていないと発表している。


FDA によれば、米国の主要な製薬企業を代表する5つのメーカーが、すべての
輸入ヘパリン材料または既に最終的な商品となった製品の汚染検査に同意した。


今月初め、ドイツの製薬会社ロテックスメディカが、同社製ヘパリンによる
アレルギー性副作用の発症を報告した。
今週になって、ロテックスメディカの品質管理部門責任者オラフ・シャゴンが、
中国の煙台東誠生化有限公司から購入した成分が汚染されていたことを発表した。
煙台東誠からのコメントは得られなかった。
FDA は、ドイツでの汚染がバクスター製ヘパリンと同じものかどうかを確認すべく、
ドイツ保健衛生当局と共同して事に当たると述べた。


14日午後、バクスターは、いまだ汚染物質の同定はされていないものの、
いくつかの可能性——百日咳菌、ボツリヌス菌ジフテリア菌、コレラ菌
破傷風菌由来のタンパク質——は排除したと発表した。
また、フグ由来のテトロドトキシンや鉛、ダイオキシンのような不純物も、
ヘパリンに含まれる不純物とは一致しないとのことである。

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