「毒ヘパリン」(20)—ヘパリンによる死者、3倍に(WSJ、4月9日付)

     THE WALL STREET JOURNAL April 9, 2008
     FDA Triples Heparin Death Count by Alicia Mundy


米食品医薬品局(FDA)は、2007年1月以降の抗凝血剤ヘパリンに
起因する死亡件数を、これまでの19件()から3倍の62件と改めた。


FDA はこの数字を、新たな死亡例の発生ではなく、ごく最近報告された
リポートまで分析範囲を広げた結果、導き出されたものであると述べた。
FDA によれば、これら62件の死亡例は、安全性懸念の主な
焦点となっているアレルギー反応に合致しているようだ。


ヘパリンによるアレルギー反応を伴った死亡例が、
2006年には年間3件であったこととは対照的だとも言う。


FDA 調査・疫学部門ディレクターのジェラルド・ダル・パンは言う。
「これだけの短期間に、これだけ大きな数字が出ることに、
非常な衝撃を受けている」


豚の腸由来のヘパリンは米国と、欧州の数カ国で回収の対象となっている。


FDA は8日、医療機器メーカーに書面で、心臓ステント(血管を拡張するために
血管に挿入する金属メッシュチューブ)といった製品に使うヘパリンの供給源を
チェックするよう警告した。
血管ステント、肺のバイパス手術やインビトロ(試験管内での)診断法に
使われるグラフト(バイパス用血管)といった装置には、
ヘパリンが塗布されているものがある。


FDA 広報担当カレン・ライリーは、医療機器に用いられるヘパリンの
「膨大な量については、議論していません」と言う。
3月28日、米医療機器メーカー大手のコビディエンは予防措置として、
ヘパリンを充填した同社製プレフィルド・ロック・フラッシュ・シリンジ
(薬液充填済み注射器)の全国的な回収を始めた。


汚染ヘパリンの問題が2月に米国で表面化し、薬品やその他製品の
グローバルな供給網の安全性に関する疑問がわき上がっている。


米国最大のサプライヤーの1つであるバクスター・インターナショナルと
あるドイツ企業は、汚染が発覚したヘパリン剤を回収している。
ドイツ当局とバクスターはともに、問題のヘパリンの成分を生成した
中国が汚染源であるようだとしている。


FDA のカレン・ライリーによれば、はっきりとアレルギー反応を示したと
判明しないものも含めれば、死亡例は103件に上り、そのうち19件に
バクスター製ヘパリンが関与している可能性がある。


バクスターは、同社製ヘパリンが関係する可能性のある死亡例は4件のみとしている。
バクスター広報エリン・ガーディナーは、FDA のリポートを引用して、こう述べた。
「アレルギー反応が原因であると分かっている死亡例は、一件もありません」


FDA によれば、3月には新たな死亡例報告はなされていない。
カレン・ライリーは言う。
「汚染されたヘパリンのニュースが発表された直後は、非常にたくさんの
リポートが、いきなり私たちの元に届きました。でも今は落ち着いています。
ほとんどの死亡例のリポートは、昨年11月から今年2月にかけてのものです」


汚染が偶然によるものか、あるいは、中国国内で輸出前のヘパリンに
故意に混入されたものかについては、FDA は断定していない。


(註:死亡件数は発覚当初は1件、その後4件となり、2月28日の FDA MEDIA BRIEFING で、
ヘパリン以外が原因である可能性のあるものも含めて21件と発表された後、1週間後の
3月5日の FDA MEDIA BRIEFING で、報告された46件の死亡例のうち19件がヘパリンを
原因とするとされた。以後、今回再度改められるまで、米各メディアはヘパリンによる
死亡件数を「19件」として報道している)

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