「毒ヘパリン」(12)—ヘパリンから汚染物質検出(WSJ、3月6日付)

     THE WALL STREET JOURNAL March 6, 2008
     Contaminant Is Found in Heparin Batches by Anna Wilde Mathews & Thomas M. Burton


投薬が原因である可能性のある死亡例が急増したためバクスター・インターナショナル
イリノイ州ディアフィールド)が回収した抗血液凝固薬ヘパリンの有効成分から、
成分未特定の汚染物質が検出されたと、米国食品医薬品局(FDA)が発表した。


FDA では、その成分がどうやってバクスターの製品に混入したのか、
また故意に投入されたのかどうかの特定には至っていない。
バクスター製ヘパリンは、数百例の副作用が報告された後、
検査を受けているところである。


FDA によれば、先の4例をはじめとした19件の死亡例は、安全性懸念の
主要因であるアレルギー反応と血圧低下反応が原因していると見られる。
当初は、死亡した19人のうち何人がバクスター製ヘパリンを投与されたかは
不明だった。
最も古い死亡例は2007年1月1日だが、FDA はその3カ月ほど後に報告を
受けただけだったという。


最新の死亡例は、FDA が新しく入手したリポートやサンプルの検査結果の範疇を
超えているように思われ、そのため、安全性の問題が当初想定されたよりも広い範囲で、
長期間にわたって医療現場に影響を与えるのではないかという疑問をもたらしている。
また FDA は、病院や腎臓センターから報告されていない死亡例がある可能性も示した。
バクスターは、昨年12月の外科手術時における副作用の報告が、今回の問題の
発端であるとしている。
同社は2月11日にマルチドース・ヘパリン(1本で複数ユニット分)の生産を停止し、
先週にはさらにヘパリンの回収範囲を広げた。


バクスターは3月5日の発表で、初めに明らかになった4件の死亡例について、
「ヘパリンに対するアレルギー反応が、致命的な結果を与えたのかもしれない。
4人の方は苦しまれたことと思う」と遺憾の意を述べた。
バクスターは、副作用の症例数は医学的因果関係の基準に従って厳密に導き出したと言う。
競合ヘパリンメーカーである APP 製薬には、バクスターFDA が述べるような
アレルギー反応のリポートは一件も報告されていないとのことである。
FDA には現時点で、ヘパリンを投与されて問題が発生した患者について
785件のリポートが報告されており、何件かはヘパリンの副作用かもしれないが、
785件すべてがそうであるかどうかについて、FDA は確証を得ていないと述べた。


FDA はまた、サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ(SPL、
ウィスコンシン州ウォナキー)がバクスターに提供した有効成分から、
汚染物質が検出されたと発表した。
そして、SPL がバクスターに提供した有効成分は、膨大な量に上る。


「その汚染物質がどの段階で、どうやって混入したのかは分かりません」と、
FDA 医薬品センターのディレクター代理ジャネット・ウッドコックは言う。
「偶然に混入してしまったのか、あるいは故意に投入したのかも、断定できません」
SPL と、同社と中国企業合弁会社(中国江蘇省常州市)は、汚染物質の混入は
「最も新しい製造サイクルのみで発生した」としている。


FDA は、汚染された一群のヘパリンと副作用には一定の「関係性」があった、と
するが、直接的な因果関係を特定するにはいまだ至っていない。
また、APP 製ヘパリンの有効成分には、同様の汚染物質は見当たらなかったとも
述べている。


バクスターによれば、疑わしいヘパリンには、中国製の粗製成分が用いられている。
その未知の物質は「天然の、あるいは生物学的な材料」であり、現在のところ、
その製品が「まがい物であったと立証するものは何もない」と、バクスター
広報官は述べた。


SPL は、汚染物質がアレルギー反応の原因であるとの確証はなく、「根本的な原因を
示す結論は得られていない」としながらも、汚染物質が含まれるヘパリンは市場から
すべて回収していると発表した。

関連記事:

「毒ヘパリン」番外—中国製造工場ルポ・スライドショー(WSJ、2月21日付)(March 2, 2008)
「毒ヘパリン」番外—「わが国は欧米と共同で薬品安全監督管理を推進する」(中国食品商務網、2月29日付)(March 2, 2008)
「毒ヘパリン」(22)—ヘパリン汚染は経済詐欺か(WSJ、4月16日付)(April 17, 2008)
「毒ヘパリン」(20)—ヘパリンによる死者、3倍に(WSJ、4月9日付)(April 10, 2008)
「毒ヘパリン」(19)—独に続き欧州3カ国でヘパリン回収(WSJ、3月26日付)(March 29, 2008)
「毒ヘパリン」(16)— FDA、汚染物質を同定(WSJ、3月20日付)(March 20, 2008)
「毒ヘパリン」(15)—悪ヘパリンが良ヘパリンを駆逐する(WSJ、3月19日付)(March 22, 2008)
「毒ヘパリン」(14)— FDA、水際での輸入ヘパリン検査実施へ(WSJ、3月15日付)(March 16, 2008)
「毒ヘパリン」(13)—中国ヘパリンメーカーのリスク管理(WSJ、3月10日付)(March 28, 2008)
「毒ヘパリン」(12)—ヘパリンから汚染物質検出(WSJ、3月6日付)(March 9, 2008)
「毒ヘパリン」(8)—輸入医薬品をめぐる議会の動き(WSJ、2月22日付)(March 12, 2008)
「毒ヘパリン」(5)— APP、バクスターに代わり急遽登板(WSJ、2月19日付)(April 9, 2008)
「毒ヘパリン」(4)—ヘパリンが暴いた米国の中国依存(WSJ、2月15日付)(April 6, 2008)
「毒ヘパリン」(3)—「4人ごろし」役を演じた中国(WSJ、2月14日付)(March 4, 2008)
「毒ヘパリン」(2)—バクスター、ヘパリン生産を停止(WSJ、2月12日付)(March 1, 2008)
「毒ヘパリン」(1)—バクスター、ヘパリンを回収(WSJ、1月25日付)(March 1, 2008)
中国製薬物の安全性確保は、それを買う側の責任(WSJ、2月28日付)(February 29, 2008)