「毒ヘパリン」(3)—「4人ごろし」役を演じた中国(WSJ、2月14日付)

     THE WALL STREET JOURNAL February 14, 2008
     China Plant Played Role In Drug Tied to 4 Deaths by Anna Wilde Mathews & Thomas M. Burton


使用後に現出した数百件のアレルギー反応と4件の死亡例が報告されて調査を受けている
バクスター・インターナショナル(イリノイ州ディアフィールド)が製造した抗血液凝固薬の、
有効成分を製造した中国の工場が、実は米国食品医薬品局(FDA)の審査を受けていなかったことを、
13日、FDA が明らかにした。


その公表は、中国やそれ以外にも世界の製造者から輸入される薬品の安全性や
品質に対する不安を、さらに広げてくれたようだ。
ペットフードから子どもの玩具まで、汚染された商品が鳴らす警鐘と結びついて、
世界中の中国産品に対するリコールを促し、検査を増加させている。


中国のプラントがこの芝居「ザ・ドラッグ・プロブレム」で、実際に殺人鬼を
演じたかどうかは分からないのだが、バクスターへのサプライヤーという役回りで、
輸入薬剤や輸入薬剤成分の安全性と品質を保証する役を演じる FDA が実は
ダイコンなのではないかという疑問を観客に抱かせるきっかけになったことには
違いない。


2月11日、主として透析あるいは心臓外科手術の際に発現した、
4件の死亡事故を含む約350件の副作用に関係した可能性があるとして、
バクスターは同社のジェネリック(後発)抗血液凝固薬ヘパリンの生産を
一時停止したと発表した。


2月13日、バクスターFDA の両者は、中国サプライヤーからの
輸入成分がこの副作用に関係するかどうかは不明であるとした。
FDA 広報官は「正直言って、分からない」と述べている。


現在中国は、有効薬剤成分——錠剤その他の薬剤をつくるのに必要な化合物——の、
世界最大の製造者である。
2007年のクレディ・スイスのリポートによれば、2005年には有効薬剤成分の
世界市場は310億ドルであり、その14%、44億ドルを中国が占めている。


米国会計検査院(GAO)の最新の証言では、FDA の海外薬品製造施設に対する調査は
過去1年間では7%程度と推測され、全プラントの調査には13年以上を要すると見られている。
GAO はまた、FDA は「調査しなかった海外施設の正確な数を提出できていない」とも述べている。
FDA が示す、米国に薬剤成分を送り込む海外施設がどれだけあるかの数も、変化している。


下院“監視調査委員会”の“エネルギーと通商小委員会”議長を務めるバート・
ステュパック民主党議員(ミシガン州選出)は、13日の声明の中で次のように述べた。
FDA が輸入薬剤や輸入薬剤成分の調査に、必要なだけ注力すると約束しない限り、
米国人の生命はリスクにさらされることになる」


13日夜、FDA の広報官が e メールによる発表声明の中で、バクスター製薬剤に
使用された有効成分を製造する中国施設は検査していないことを明かした。


「いままで該当施設に対する FDA の検査は実施されていないが、できるだけ
速やかに検査するための準備は整いつつある。既に施設への立ち入りを要請したし、
中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)と交わした最新の協定によって、事はスムーズに
運んでいる。また、製品に関わる施設の内部調査データと事故情報の提供も要請している」


「該当施設は検査されることになっていたが、われわれの了解するところでは、
人為的ミスと不十分な情報技術システムのために、通常は実施されるべき事前審査が
行われなかった」


声明はその中国サプライヤーの名称、所在地を直接的には明らかにしなかった。
またその中で「バクスターの子会社で、最終的に商品のパッケージングを
行うニュージャージー州チェリーヒルの施設は検査済み」としている。


バクスターの大手競合、APP 製薬(イリノイ州シャウムバーグ)もまた、
中国のサプライヤーから同社製ヘパリン用有効成分を得ている。
バクスター製ヘパリンと万が一にも結びつくような副作用は
「こちらでは発生しておりません」と、APP の広報官は答えた。


ある FDA スタッフは、バクスター製ヘパリンによる副作用のほぼ40%は、
重篤な症状に分類されると推定した。
副作用は、胃痛、嘔吐、下痢、血圧降下、動悸、めまいといった症状を呈している。


豚の小腸由来のヘパリンは、1930年代から米国で販売されている。
バクスターは1日当たり約10万本を販売してきた。
静注点滴または注射によって投与され、血液凝固の治療や
防止といった医療分野で幅広く用いられている。


ことにヘパリンは、患者の血液を体外に取り出す心臓外科手術には欠かせない。
また腎臓透析やアフェレシスでも使われる。
アフェレシス(血液成分除去)とは、免疫機能不全などに用いられる治療手法で、
血液を患者の体外に取り出し、血液中の不要な成分を取り除く。


バクスターの広報官は、同社がヘパリン用の有効薬剤成分を、中国と米国に
プラントを持つ米国サプライヤーから供給を受けていることは確かであると
したものの、そのサプライヤーの特定は拒んだ。
また彼女は、バクスターFDA と協力して中国施設の検査を
予定していると言ったが、それがいつになるとも答えなかった。


彼女によれば、バクスターはその米国サプライヤーとは20年来共に事業に取り組んで
きており、米国サプライヤーはこの30年間、ヘパリン用の薬剤成分を生産してきた。


バクスターのヘパリン販売は2002年の後半からです。その年にバクスターは、
開発者であるワイスのヘパリンの成分組成を獲得しました」


「中国での工程には、問題が起こる以前となにも変化はありません」と言って、
彼女はこう付け加えた。
「中国の施設が今回の問題に関係していると、まだ決まったわけではありません」


ヘパリンは病院や透析センターで広汎に使われており、必要量が不足することを
回避するために、バクスターFDA と協議のうえ、現在供給されている
ヘパリンの販売を継続するものとした。


バクスターは米国で使用されるヘパリンの、およそ50%を供給している。
そのため、ヘパリン不足の可能性が現実のものとして浮かび上がってきた。
1週間以上前にバクスターは、副作用を起こすのは9ロット分に限られると
断定したが、後にそれら以外でも副作用が現出していることが分かり、
さらにその範囲を広げた。

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