「毒ヘパリン」—中国製造工場ルポ・スライドショー

     THE WALL STREET JOURNAL February 21, 2008
     Where a Drug Begins by Gordon Fairclough & Thomas M. Burton

広く使われている抗血液凝固薬の主要成分であるヘパリン、世界に流通する
その半分以上は、管理基準のお粗末な中国サプライチェーンから生み出される


slide show (別ウインドウ) ●(注意:豚の内臓が写っています)

(1)

抗血液凝固薬の主要成分である粗製ヘパリン製造の第1工程は、中国の
小さな——多くは原始的な——工場で行われることがしばしばである。


中国山東省の小さな工場集積地域にあるユアン・インテスティン・アンド・
ケーシング・ファクトリー(ユアン腸消化器管処理場)では、作業員が素手で、
薬品製造に使われる豚の小腸を解きほぐし水洗している。

(2)

豚の小腸を搾って、ヘパリンを含むどろどろのパルプを取り出し、
蓋のないセメント桶に入れて加熱する。


近代化された工場では、さらに工程を重ね、外科手術に臨む、あるいは
腎臓透析や輸血を必要としている世界中の患者に処方される
静脈注射用薬剤向け化学物質を製造する。

(3)

未精製のヘパリンを抽出する工程は、さらにシンプルだ。
まず、屠畜場から豚の小腸を引き取る。

(4)

搾り機で小腸からパルプを搾り取る。

(5)

パルプからヘパリンを抽出するためにイオン交換樹脂と塩水を加え、撹拌する。

(6)

濾過して樹脂を取り除き、ヘパリンと塩水を分離するためにアルコールを加える。
塩水を除いたヘパリンのアルコール溶液を、麻袋で蓋をした陶製瓶に入れて貯蔵する。


パルプを搾り取った後の小腸——写真後方、容器の口部に
掛けられている——はソーセージの皮に使われる。

(7)

プラスチック製バケツに入れた粗製ヘパリンを見せる作業員。

(8)

化学成分を動物から取り出すのは、もともと「汚れ仕事」だ。
欧米の製薬企業は、BSE牛海綿状脳症狂牛病)発覚以降、病気の拡大を恐れて、
それ以前はヘパリンの原料として広く用いられていた牛を使わなくなった。

(9)

2006年中頃から、中国ではブタ繁殖・呼吸障害症候群に苦慮している。
常識的に考えれば、病気の動物は避けられるだろう。
しかし現実には、その徹底は時としてルーズになる。

(10)

粗製ヘパリンは乾燥した後(写真)、有害物質を取り除く
多くの工程を経てから、最終的な薬品となる。


管理体制が首尾一貫していない中国のヘパリン産業は、
医薬品企業の製剤原料購入が国境を越えて増大しており、
そこに基準格差が存在することを浮かび上がらせる。

(11)

それでもなお、ヘパリン業者が製造現場労働者を増員するだけの需要がある。
ある企業は、農民を訓練プログラムに勧誘する宣伝文句に
「年収2万ドルも夢じゃない」とうたっている。
2万ドル——中国の農村では、ひと財産だ。

(12)

巨大なヘパリン市場の真ん中に、昨年11月、安徽省の懐寧雪蓮畜牧有限公司
より近代化されたヘパリンの大工場を立ち上げた。


そこでは、作業員はゴム長靴と厚手のエプロンを着用して、
3本のラインで小腸を処理している。

(13)

企業オーナーのワン・ジーウェンは、新しい衛生管理を導入している
——作業員には手洗いを義務づけ、長靴を清潔に保つためにフットバスを設置した。

(14)

雪蓮畜牧では年間800〜1000キログラムの粗製ヘパリンを製造できる。
対して、旧スタイルのユアン・ファクトリーでは約6キログラムだ。

(15)

パルプはステンレススチールパイプで輸送されて、密閉された金属タンクに集められ、
ヘパリンを分離抽出するため、加熱、撹拌など一連の化学的処理を施される。

(16)

ワン・ジーウェン
——わたしの工場では、ヘパリンをひとまとまりずつ分けて、
単位ごとに屠畜場の豚の記録を注意深く取っています。
しかし、豚の記録を個々の畜産農家まで遡ることは不可能です。
屠畜場の記録は、そこまで細かくありませんから。

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