中国製薬物の安全性確保は、それを買う側の責任(WSJ、2月28日付)

     THE WALL STREET JOURNAL February 28, 2008
     China Puts Drug-Safety Onus on Buyers by Gordon Fairclough


  日本が「毒餃子」で大騒ぎとなっている今日この頃、海の向こうでは
  中国製薬剤成分が原因と思われる医療事故が問題となっています。
  米国の製薬会社バクスター製の抗血液凝固剤ヘパリンの使用で4人が死亡、
  約350件の健康障害——呼吸困難、吐き気、嘔吐、血圧降下など——
  が報告され、バクスターは薬品の自主回収を余儀なくされています。
  その薬品の主成分は、米国企業と中国企業合弁会社が中国で製造したもの。
  この問題に対する中国当局の回答は
  「米国企業との合弁会社が、米国の技術で製造したもの。最終的な責任は米国にある」
  なんだか、どこかで聞いたような話ですね。


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輸出抗血液凝固剤の安全性への疑問に対して、中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)は、
中国製の製薬成分のチェックは、最終的にそれを購入する国の責任であると回答した。


「SFDA は薬剤成分製造の監視を、相手国と同様に行うが、国際的な慣習として、
製剤成分の合法性、品質および安全性保護の有効性は、輸入国に帰せられる」


声明はまた、SFDA はバクスター・インターナショナル(イリノイ州ディアフィールド)が
米国で販売した抗血液凝固薬ヘパリンに関係すると思われる死亡・中毒事故の調査に
おいては、米国食品医薬品局(FDA)と協力してあたるとも述べている。
バクスター製薬品に使用されたヘパリンの一部は、米国でヘパリンを製造する
サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ(SPL、ウィスコンシン州)と
中国企業合弁会社(出資比率は SPL が55%、中国企業が45%)によって中国で
製造された。


SFDA によれば、問題の合弁会社のオーナーは米国の大企業であり、製造技術は
SPL から供与されたもので、そこで生産された製品はすべて米国へ輸出されている。
さらに SPL との合弁会社常州 SPL」は、ヘパリンの製造を米国当局によって
2004年に認可されている。


どのような形であれ、中国で製造されたヘパリンがバクスターの薬品による事故に
かかわっているのかどうかは、いまだ不明である。
それでも今回のヘパリンのケースは、製薬会社の国境を越えた薬剤成分購入が
増加しており、その際の管理体制に格差が存在することを際立たせた。
ことヘパリンに限らず、中国は世界規模で、製薬産業に多くの原材料を供給している。


WHO(世界保健機構)薬品安全局長レンビ・ラゴは、中国の多くの製造業者は
「国際基準を理解していないか、それを満たす訓練を受けていない」と言う。
彼はまた、米国や欧州諸国の消費者は、それぞれの監督機関によって
ある程度保護されているのだと言う。
「それをチェックする体制が十分に整っていない国にとって、
薬品の品質は非常に大きな問題だ」


SFDA の広報官ヤン・ジアンインは、「中国において、有効薬剤成分製造業者は
SFDA によって製薬会社としての“登記と認証”を受けなくてはなりません」と言う。
「外国のバイヤーはこの認証をチェックしているはずですし、
輸入国は当然、成分と薬品の“厳格な試験”をすべきです」


  ※ SFDA によれば、常州 SPL は SFDA の“登記と認証”を受けていない


彼女はまた、SFDA は輸出薬剤成分の監視について米国 FDA との
“さらに強固な協力関係”を築くべく努めていると言う。
FDA のアンドリュー・フォン・エッシェンバッハ局長は、FDA がその責任
(輸入される薬剤成分すべてに“厳格な試験”を施す)を完全に果たすには、
いまの予算では不十分だと言う。
「輸入薬剤は、いまもその数を増やしつつある。
それに立ち向かうのは、われわれにとって“最大の挑戦”だ」


粗製ヘパリンの製造者——豚の腸から化学物質を抽出する彼らは、たいてい小さな作業場で
それを製造しており、常州 SPL やそのほかのヘパリン精製業者に納入する——は言う。
「保健所が来ることなんて、ほとんどないな」

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