中国の遺伝子組み換えフードブーム

     TIME February 18, 2008
     China's Genetically Altered Food Boom by Krista Mahr


日本での中国製餃子中毒騒動も冷めやらぬ先週、中国の食品産業には
新たな管理統制上の検査項目が加わった。
2006年と2007年に欧州当局は、中国から EU への食品輸出の過程で、未許可の
——欧州、中国の双方で違法とされている——中国産遺伝子組み換え米を発見した。
2月12日、欧州委員会(EC)が制定した中国産食品の輸入に関する緊急法令では、
4月15日以降、中国産米を含む製品は、変種遺伝子米「Bt63」の検査実施証明が
義務づけられる。


その法令は、遺伝子組み換え種苗の生産販売ビジネスにおいて優勢に立つ中国に対する
西洋の不安を物語っている。
世界の農地面積の10分の1に満たない農地で、世界人口の5分の1を占める自国民すべてに
食物を行き渡らせるという課題に直面して、とりわけ国土開発や旱魃で農地が
失われつつあるという状況下、農家がより低コストでより多くの作物を収穫できる
病害虫や雑草に対する抵抗力という特質を遺伝子的に加味された DNA を持つ農作物に
望みを懸けて、中国政府は遺伝子組み換え作物GM 作物)の研究開発に何億ドルと
資金を注ぎ込んできた。
すでに中国では、綿のほとんどが異種間遺伝子移植によって作り出された
トランスジェニックであり、米、小麦、トウモロコシ、大豆および家畜は
そのための体制がほぼ完成している。
国際アグリバイオ事業団(ISAAA)の創業会長クライブ・ジェームズは「中国は、
従来のテクノロジーでは国民を食わせることができないと見切っている」と言う。
ジェームズによれば、GM 作物が商業的に成長してからの12年間、その作付けの
ほとんどは米国だった。
「次の10年はアジアだろう」


それは、永遠に議論の的となるこのテクノロジーが持つ2つの局面のうち、
もう一方の局面に議論が移ることを意味する。
米国は GM 作物の、世界で最も熱心な推進論者だ。
耐除草剤性大豆や耐虫性トウモロコシなど、膨大な量の GM 作物を作っており、
モンサントやデュポンのようなグローバル企業が遺伝子操作を加えた種苗は、
保健基準や環境基準に適合している。
米国では監督当局が GM 作物の安全性を管理保証してきた。
その間に中国では、ある国の安全性試験を他の国に果たしてそのまま移植
できるのかという疑問を、急速に引き起こした。
「安全性試験はわれわれに依託してほしいと、ずっと言っているんだがね」と、
ワシントンにある公益科学センター(CSPI)バイオテクノロジープロジェクトの
ディレクター、グレゴリー・ジェイフは言う。
「いまのところ、相手に下駄を預けた格好だ。好ましいことではないと思っている」


米国よりも GM 食品が消費者に受け入れられていない欧州では、Bt63 汚染に
対する不安は、世界中で GM 作物の消費が日々増加しているという状況で
ひとびとが一般に感じる不安と同種のものであって、中国の安全性基準に特に
根ざしたものではないのかもしれない。
つまるところ、違犯しているのは中国だけではないのだ。
米国もまた、米国の GM プラントが「間違った食物連鎖」を表出させたという
無視できない事実がある。
そのための膨大なコストは、遺伝子組み換えに慎重な姿勢を示す国々に
貿易という形で押しつけられたのだ。
昨年、グリーンピースと共に活動している英国の監視グループ、遺伝子ウオッチ
UK(GWUK)が、全世界の食物供給における違法な GM プラント、または
それぞれの国家が違法と認めた GM プラントをリストアップしたところ、
その数は39に上った。


GWUK が発行するグローバル遺伝子汚染リストを整備しているベッキー・プライスは、
それらのプラントが残す足跡は、科学とはほど遠いところにあると言う。
GM 作物がどんなふうに成長して食物連鎖に入り込むのか、
それをどうやって止めるのか、だれも論証していないのよ。
遺伝子組み換えなんて、まったくバカげた構想だわ」


中国政府は、中国に対する世界の声に耳をそばだてている。
先週のECの公告よりもずっと以前に、中国当局GM 食物の性急な生産・販売に潜む
リスクに気づいていた——とりわけ、世界的なイメージの悪化というリスクについて。
これまで中国では、パパイヤ、トマト、シシトウガラシといったマイナーな農産物のみ、
小規模な商業プラントが認められてきた。
ほんの数年前には、多くの科学者が、中国は Bt63 のような変種の遺伝子組み換え米で
大きな成功を収める世界最初の国家になるのだと信じて疑わなかった。
しかし2003年、グリーンピースが、未許可の GM 米を中国市場で発見した後、欧州で
加工麺から違法米成分が検出されるに至って、中国農業部はその速度を緩めたように見える。
現在は、試験用の変種だけを中国国内の試験圃場から外部に出ないよう留め置き、
それ以外は米を栽培農家から買い戻して処分するため、その経費で生物工学研究室の
資金が枯渇し始めている。
「続けたところで、認可されるものとも思えない」と、中国科学院農業政策研究
センターの黄季焜(火へん+昆)主任は言う。
「中国が輸出する米の総量は小さいとはいえ、もし中国が GM 米を商業化する
最初の国になって、そのうえ国際取引の場で失敗したとしたら、すべての中国産品が
その信頼を失うに違いない」


中国政府は国内においてさえ、信頼性の欠如に直面している。
昨年グリーンピースが実施した調査では、上海、北京、広州の GM 食品を知っていると
答えた消費者の65%が、昔ながらの遺伝子組み換えでない食品を選んでいる。
「そうですね、もしいま、トランスジェニック植物を見たら、ほとんどのひとは
敬遠すると思いますよ」と、華南農業大学の李華平は言う。
中国政府は GM 食品にはそのことを示すラベルの貼付を義務づけているが、李が生産を
手伝ったトランスジェニックパパイヤの多くは、市場でラベルを剥がされてしまう。
「ラベルを貼っていたら売れないってことを、みんな知ってますからね」
それでも、こんな状況もいつか変わるはずだと、李は楽観的だ。
「知識が広がって、トランスジェニックの意味を理解して、
そうしたらみんな、トランスジェニックをもっと好きになると思いますよ」


確かに、中国の研究開発のすべてが永遠に眠ったままということはないだろう。
ISAAA のクライブ・ジェームズが正しければ、「アジアの10年」はもう始まっている。
もし何らかの危険なウイルスが中国国内の米の供給を脅かすなら、あるいはもし、
それを決定すべき地位にある為政者が、地球規模で高騰する食糧価格に対する答えは
トランスジェニックトウモロコシであると決めたならば、
北京の「緑の光」が世界を照らすのも、あながち遠い未来の話ではない。
世界はその日に向けて準備すべきだ。

CSPI:Center for Science in the Public Interest:http://www.cspinet.org/
Greenpeace:http://www.greenpeace.org/international/
GeneWatch UK::http://www.genewatch.org/
ISAAA:International Service for the Acquisition of Agri-Biotech Applications:http://www.isaaa.org/
中国科学院農業政策研究センター:http://www.ccap.org.cn/