「グリーン」はポイントアップの魔法の呪文

     BusinessWeek February 20, 2008
     Green—Up to a Point by Ben Elgin

「エコ」を標榜するにもかかわらず、USCAPには
二酸化炭素排出規制の弱体化を目論むメンバーがいる


 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


昨年1月、企業の環境保全に対する考え方の転換点と看做される出来事があった。
10の米大企業と4つの環境団体が、温室効果ガス排出規制を連邦条例で定めるよう
求めるために手を結んだのだ。


米国気候行動パートナーシップ(USCAP)は、ゼネラル・エレクトリック(GE)、
ゼネラル・モーターズGM)を含む27の団体からなり、地球温暖化による最悪の結果を
回避するために、温室効果ガスの排出量を今後15年間で10〜30%、2050年までに60〜80%
カットすることを社会に呼び掛けて(「A CALL FOR ACTION」)エコロジストの賞讃を集めた。


しかし、USCAP で重要なポジションを占める企業が、環境保護の努力や
環境団体を支持するその裏で、温室効果ガス削減の義務化や政策を促すことに
抵抗し、USCAP をほとんど有名無実化してしまおうとしている。
ワシントンに拠点を置くクリーン・エア・ウオッチのフランク・オドネルは言う。
「彼らの多くはグリーンなイメージがほしいだけで、環境問題のためにカネを
使おうとはしない」

分裂する環境保護意識


USCAP の主要3社——GE、キャタピラー、アルコア——は同時に、
エネルギー & 経済開発センター(CEED)の委員会メンバーでもある。
CEED は1992年、温室効果ガス規制に対抗してバージニア州アレクサンドリア
設立された団体であり、その委員会は2007年4月、2050年までに温室効果ガスの
排出量を65%削減することを求める連邦気候法案を「過酷である」と記した所信表明に、
満場一致でサインした。


CEED の主張どおり、未来のエネルギーミックスにおいて石炭は主要な役割を
果たすべきなのだと、GE は言う。そのために GE は、石炭をもっとクリーンに
燃やす方法を追求しているのだと。
キャタピラーは気候政策上のいくつかの点を除いて、大筋で CEED に同調している。
アルコアは CEED での自身の在り方を検討すると言っており、恐らく脱退するだろう。
アルコアの広報、ケビン・ロワリーは「われわれの USCAP メンバーとしての行動と、
CEED のそれとは一致しない」と言う。


400万以上の米国家庭にエネルギーを供給し、全米第3の温室効果ガス排出企業である
デューク・エナジーも同様に葛藤している。
1年前の USCAP 設立に際して、デューク CEO のジェームズ・E・ロジャースは
企業連合のねらいを支持した。
「気候温暖化が進みつつあることは科学的にはっきりしている。
われわれは今、行動を起こさなくてはならない」


その7カ月後、デュークはアメリカン・フォー・バランスド・エナジー・チョイス
(ABEC)に加わった。
CEED が母体となって2000年に設立された団体で、石炭使用の拡大を擁護している。
ABEC は今年、予算に3倍の3500万ドルを計上して、
石炭プラント建設支援キャンペーンをいくつかの州で進めている。
州の監督機関が地球温暖化への懸念からプラントへの環境許可証発行を拒否して以来、
ABEC の従業員が新しい石炭プラントについて説明して回っているカンザス州が、
キャンペーンを展開する全米最初の州となった。

深い穴はなんのため


いま以上の石炭火力発電プラントの建設は、USCAP の提言、とりわけ15年以内の
温暖化ガス10〜30%削減という直近の目標達成を、ほぼ不可能なものにして
しまうことは間違いない。
石炭火力発電は現在すでに米国最大の温室効果ガス排出源であり、長期的な問題解決の
最善策とされる二酸化炭素の地下埋設を広範囲にわたって採用するのであれば、
そのプロセスには少なくとも10年から20年を費やすのだから。
自然保護団体シエラクラブ石炭プログラムディレクターのブルース・ナイルズは言う。
「もし連中が本気で気候変動をストップさせるつもりなら、新しい石炭火力発電所
建てるために深い穴を掘るなんてことは、しやしないさ」


現在2つの石炭プラントを建設中のデューク、ロジャース CEO は言う。
「必要なのは環境とエネルギー需要のバランスだ。この国で、
すべてのひとが受け入れられる低カーボン世界への橋渡しを
どう実現するのか、それをこそ議論しなくてはならない」

コケにされるグリーンへの努力


地球温暖化規制に対する反対姿勢を明確にするビジネスグループもある。
2007年暮れ、米商工会議所が炭素削減を揶揄するテレビ広告を流した。
冬着で着膨れて眠る家族、ロウソクの炎で卵を調理する男、ビジネススーツを着て
職場までジョギングするひとびとに、ナレーションがかぶさる。
「審議中の気候条例は、家庭を暖め、生きる力を得、車を運転することを
とても高価なものにするでしょう」


USCAP メンバー8社——クライスラー、ディア(農機具)、ダウ・ケミカル
デューク・エナジー、GE、ペプシコ、PNM リソーシズ(電力)、シーメンス——は、
113社が加盟する商工会議所にも名を連ねている。
商工会議所の環境・テクノロジー・規制問題担当ウィリアム・コバクス副会頭に
よれば、会議所の環境ポリシーを変えようなどと議論するものはひとりもない。


この広告キャンペーンは、USCAP 設立を支援した団体のひとつ、
環境 NGO エンバイロメンタル・ディフェンス(ED)の神経を逆撫でした。
ED の執行役副代表であり USCAP コミュニケーションコーディネーターを務める
デイビッド・ヤーンノルドは、8社に意見書を叩きつけた。
「われわれはあなた方に、商工会議所のボードメンバーとして、この問題に
対する会議所のポジションを、もっと生産的なものとするよう促したい」


しかし会議所のコバクス副会頭は、なんらプレッシャーを感じていない。
事実、商工会議所は、2月20日から22日にモナコで開かれる
国連(UNFCCC)の気候ミーティングに新しい広告をぶつけると彼は言う。
その新広告の指摘するところは、こうだ。
地球温暖化を議論するあらゆる国際団体は、日常的な会合で
世界を飛び回って、炭素をまき散らしているではないか」


USCAP の真の信者が、両方の陣営で立ち回るメンバーに進退を迫るのも
そう先の話ではないだろう。
「われわれはメンバーにフリーパスを与えるつもりはない」
USCAP の一員である環境保護団体ナチュラル・リソーシズ・ディフェンス・
カウンシルの気候センターディレクター、デイビッド・ホーキンスは言う。
「当然彼らはほかの USCAP メンバーに圧力をかけるものと、
われわれは考えている」

ABEC:Americans for Balanced Energy Choices:http://www.americaspower.org/
CEED:Center for Energy & Economic Development:http://www.ceednet.org/ceednet/
Clean Air Watchhttp://www.cleanairwatch.org/
Environmental Defense:http://www.environmentaldefense.org/home.cfm
Natural Resources Defense Council:http://www.nrdc.org/
Sierra Club:http://www.sierraclub.org/
UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change(気候変動に関する国際連合枠組条約):http://unfccc.int/2860.php
USCAP:U.S. Climate Action Partnership:http://www.us-cap.org/
U.S. Chamber of Commerce:http://www.uschamber.com/default