カーボン・ニュートラル・シティの夜明け

     BusinessWeek February 11, 2008
     Rise of the Carbon-Neutral City by Matt Vella

世界中で大いなるグリーンシティ計画が立案されているが、
それらは問題の解決を約束すると同時に、新たな問題も生んでいる

(トップ画像キャプション)風力、生物由来燃料、太陽エネルギーを動力源とする計画の中国・
崇明島の東灘は、おそらくすべてのサステナブル(持続可能な)建築プロジェクトの生みの親だ


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アブダビの風吹きすさぶ砂漠では、グリーンオアシス計画が謳う
「大いなる都市計画のひとつ」が建設されつつある。


2月7日、アラブ首長国連邦UAE)はマスダール・シティ計画を遂行する
コンソーシアムに資金を提供した。
マスダール・シティは炭素排出ゼロ、無駄なエネルギー消費ゼロ、5万人が居住する
自己充足コミュニティーであり、7つの街区が8年の歳月をかけて完成される。
太陽エネルギー設備、水処理システム、無公害地下トラム、そして
マサチューセッツ工科大学(MIT)が協力する研究専門大学を備える、
最先端をいく220億ドルの巨大プロジェクトだ。


英フォスター & パートナーズが青写真を描くマスダール・プロジェクトは、
砂漠を緑に塗り替えるイメージだけでなく、UAEオイルマネー経済に多様性を
もたらすに違いない。
しかしさらに重要なのは、マスダール・プロジェクトが、世界規模で常に更新されている、
より高みを目指して、より高い実現性を備えた、より環境にやさしい都市デザインの、
最も新しいプロジェクトだということだ。
地球温暖化人口爆発への憂慮から、いままさに「未来のグリーンシティ」モデルが
先を争ってデザインされ建設されつつある。
どの計画も、グリーンイノベーションの新境地と呼ぶにふさわしいスケールと
複雑さを持っている。


サステナビリティー(持続可能性)に注力したまったく新しい都市建設という
大いなるプロジェクトは、すべての大陸で同時進行していると言ってよい。
よく知られたところでは、バージニア州シャーロットビルの建築事務所
ウィリアム・マクドナフ・プラス・パートナーズとロンドンのアーラップが
請け負った、中国の大規模なグリーンプロジェクトがある。
そのプロジェクトは中国の、しばしば発生する唖然とするほどの環境破壊を
制御する能力が、エンジニアや都市計画プランナーに備わっているかどうかを試す、
格好のテストとなるだろう。

雪崩うつイノベーション


似たようなところで、コスタリカノルウェー、さらにはリビアまでもが、
クリーンエネルギー、再生可能エネルギーの生産によって、カーボンニュートラル
温室効果ガスの相殺を実現する、政府支援の開発計画を発表した。
欧州や北米では、人類が消費するすべてのエネルギーを太陽エネルギーと
水素燃料電池から得ようという、たくさんの小さな企業、公共事業が現れた。


「建設中の計画だけでなく、まだ実験段階にあるより多くのプロジェクトでさえ、
進めれば進めるほど、最終目標を高めざるを得ないゆえにゴールが遠ざかる、
という矛盾をはらんでいます」
マサチューセッツ州メドフォードのタフツ大学で都市・環境政策を教える
アン・ラパポートの謂いである。
「現在の計画の多くは、1980年代や90年代の厳密なグリーン数値目標と
同じように、科学技術や建築学の発展ペースを速めて見積もる傾向があります。
そして80年代、90年代に学んだ最も大きな教訓は、いつまでたっても
所期のゴールには届かない、ということでした」


環境に関するブログ、NPO(非営利組織)をリードするワールドチェンジング・
ドット・コムの共同創業者兼執行役主幹アレックス・ステフェンは言う。
「正直なところ、われわれにはイノベーションが必要だ。それも生半可でなく、
雪崩うつような」
「計画自体は、実践するに当たっての限界線を押しやり、可能性というものの概念を
広げるのに役立つ。だが具体的な都市デザインは、トレンドに立脚すべきだろう」

イノベーションは高価である必要はない


マスダールや、アーラップが中国東岸・崇明島で進める13億ドルの東灘プロジェクトは、
内装設備の設計いわゆるインフィルである点、あるいは既存の建物や街に
グリーン原則に沿って機能を追加するという点で、確かにアドバンテージがある。


マスダール建設を監督するアブダビ・フューチャー・エナジーの資産開発ディレクター、
ハレド・アワドによれば、都市デザイナーは風力タービンができる限りたくさんの
クリーンエネルギーを生み出すことができるよう、開発レイアウトを一から起こしている。
しかしそれは何年も前にレイアウトされたであろう、数千とは言わないまでも
数百のプランのうちの一つで、今回まったく新たなプランを立てるという贅沢を
したわけではない。


いま計画されている多くの主要な都市プロジェクトで、効果の大きい断熱材のような
シンプルな資材が、実際的なエネルギー効率を実践する建築物の中核的な
構成要素として用いられることは、イノベーションが必ずしも高価であったり
ハイテクであったりする必要などないということを思い出させてくれると、
アーラップの都市戦略を率いるゲリー・ローレンスは言う。
米国グリーン建築評議会(USGBC)によれば、建築物の非効率なエネルギー消費が、
全世界の二酸化炭素排出量のほぼ3分の1を占める。
「ガラスを多用している建物の多くは、熱効率が非常にわるい」と、ローレンスは
断言する。
「一年中、窓を大きく開け放っているようなものだ」


しかしキラ星のごとき、コンピューター制御による集中管理を売りにする
デザインプロジェクトですら、全地球的な環境破壊に対して、それらの新しい都市建設が
いかほどの影響をもたらし得るのか、という疑問を、環境保護主義者に抱かせずにはおかない。
オレゴン州ポートランドで市のグリーン開発プロジェクトを支援する、ポスト・
カーボン・インスティテュートのプログラムマネジャー、ダニエル・レーチは言う。
「新しい都市計画に費やされる経費で、既存の都市をよりサステナブルにすることが
できたのではないか、と疑問に思わざるを得ない」

答えよりも多くの疑問


国連人口基金UNFPA)によれば、全世界の都市居住者数は2030年には50億人に達する。
世界人口のおよそ60%であり、その大部分が既存の都市中心部に集中する。
アーラップのローレンスは、全地球的な環境破壊に対して
「実際のところ、われわれのやり方では問題解決にはならない」と認める。
多くの大きな会社と同様、アーラップは新都市建設だけでなく、
既存の構造に機能を追加する改造プロジェクトにも携わっている。
「過去のグリーン化政策を見直すことも、絶対に必要だ」


そしてもちろん、いわゆるグリーンウォッシング(見せかけの環境保護活動)や
サステナビリティーをめぐる議論のミスリードといった懸念もある。
環境保護を唱えるだけなら、だれにだってできる。でもそれは、
本当に効果が伴うものだろうか」
コロラド州スノーマスのサステナビリティー研究機関ロッキー・マウンテン・
インスティテュートのマイケル・キンスレー都市担当上級コンサルタントは問いかける。
「一般には、いずれのビッグプロジェクトも見込みありと信じられているが、
新都市開発プロジェクトのノウハウやテクノロジーが、結局はマスダール
ロンドンやロサンゼルスのような旧来の都市に変貌させてしまう可能性について、
注視しておくべきだ」
「これらの計画が完璧なら、エネルギー消費にどう説明をつけるかを監視していれば、
計画の運営者がサステナビリティーという課題にどれだけ真剣に取り組んでいるかが
分かるだろう」


かつてグリーンコミュニティーとしてもてはやされた計画は、当初見込まれたよりも
もたついて、世の中は進歩し続けているというのに、結局のところ、最初に描いた青写真を
実現させるまでに至っていない。
例えば、アリゾナ州フェニックス郊外のグリーン実験都市アルコサンティは、
計画がスタートしたのは1970年だが、いまもって建設途上にある。

危うい信憑性


既存のグリーン都市計画にもベストと呼べるものはいくつかあるが、
それらはつい最近まで、そのように喧伝されることがなかった。
少なくとも1970年代以降、カナダ第3の都市バンクーバーは、公共輸送機関の
効率最大化によって、市人口の増加が環境に与える負荷を最小化していることに
対して、世界中の都市開発戦略を担うプランナーからの賞讃を得ている。
これは今日のグリーン建築ムーブメントが根づく以前の、効率という観点による
プログラムだ。


「最先端科学がどうのということではない」
ワールドチェンジング・ドット・コムのステフェンは、
バンクーバーの都市建設を例に挙げて言う。
「多くの場合、われわれは単に、最適解を選択していないだけだ」


それでもなお、マスダール、東灘やその他のニューシティーの後ろに控えるエンジニア、
プランナー、建築家たちは、ニュープロジェクトは技術的で実際的な、都市機能の改造や
そのほかの産業に応用できる飛躍的進歩を生み出すのだと主張する。
プロジェクトを完成に導くために必須の広範な国際的パートナーシップが、
おのずと、さらなる情報の共有を促し、デザイン戦略をより効果的に機能させ、
グローバルな持続可能コミュニティーに汎用的なよい影響をもたらすと言うのだ。
結局のところ、グリーンシティ建設ムーブメントの信憑性は、それ自体そのムーブメントの
ひとつである中東の砂漠や霧に覆われた中国沿岸の島に懸かっているのだろう。


「もし失敗したら」と、マスダールのアワドは言う。
サステナビリティーには永遠に砂嵐が吹きすさぶことになるだろう」

USGBC:U.S. Green Building Council:http://www.usgbc.org/
Post Carbon Institute:http://www.postcarbon.org/
Rocky Mountain Institute:http://www.rmi.org/
UNFPA:United Nations Population Fund(国連人口基金):http://www.unfpa.org/
World Changing:http://www.worldchanging.com/

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