ルパートはなぜ、ウォールストリート・ジャーナルを完全無料にしないのか(前編)

     BusinessWeek January 25, 2008
     Why Rupert Won't Make the WSJ Fully Free by Tom Lowry


ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションは2007年12月13日、
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)を発行するダウ・ジョーンズを50億ドルで買収した。


マードックダウ・ジョーンズの買収者である前に、スクープをものにしたくて
うずうずしている“ブン屋”だ。その彼が今回、特ダネをスッパ抜いた。
1月24日、ニューヨークのダウ・ジョーンズ本社から正式発表がある数時間前に、
ニューズ・コーポレーションの会長として出席していたダボス世界経済フォーラムで、
WSJ のウェブサイト(wsj.com)を完全無料にはしないと語ったのだ。


wsj.com の有料制を維持するというマードックの決定は、内情を知らない人々を驚かせた。
ここ数カ月、マードックはインターネットビジネスの必勝パターンに従って、
トラフィックを徐々にアップして広告収入を押し上げるために、
有料の wsj.com を思いきって無料化するだろうというのが大方の予想だったし、
マードック自身、そのように匂わせ続けてもきたからだ。


しかしマードックは、ダウ・ジョーンズのレス・ヒルトン CEO とロバート・トムソン WSJ 発行人(この2人は
マードックの腹心として、ニューズ・コーポレーション U.K. からダウ・ジョーンズに送り込まれた)、
旧経営陣であるゴードン・クロヴィッツWSJ 発行人とダウ・ジョーンズ・コンシューマー・
メディア・グループのトッド・ラーセン COO との間で、最近の数週間に何回かミーティングを持ち、
1996年の wsj.com 開始以来続いている有料制をいま手放すのは、あまり賢いやり方ではないという結論に至った。

ケーキを手にする者が、ケーキを食べる

マードックが方向転換を考えているとの噂が立ち始めたのは、ニューヨーク1月9日、
マンハッタン・マリオットホテルでの、WSJ の局長や編集者とのディナーの後のこと。


コンサルタントに頼らず、ダウ・ジョーンズの経営陣はマードック
かなりの数の、いわゆるシナリオモデルを提出した。
しかし結局のところ、マードックダボスに発つ1週間ほど前に、自分自身で結論を出した。
彼は広告収入の減少を心配しただろうか? したかもしれない。
しかしマードックは、短期的な不安などには惑わされない人間の一人だ。
そして、戦略的で忍耐強い、長期的な思考の持ち主であることの強さを、何度でも何度でも見せつける。


「彼には、神の啓示などありはしない。単に有料購読制の利点に気づいただけだ」
とは、マードックに近い役員の1人の謂いである。
そして WSJ は1月10日、社説ページのコンテンツを無料とするプランを発表した。


これによってマードックは、有料制と無料制両方の利点を得られると確信している。
彼は、wsj.com の購読料は企業経営者が払い、オンライン読者の需要はほとんど変化しないと読んでいる。
にもかかわらず、購読料収入の増収を目論んでいる(ダボスで彼は、購読料の値上げを示唆した)。
そしてまた、新しい無料コンテンツがおそらく生み出すだろうトラフィックの増加がもたらす
広告収入の増収も望んでいる。


ニューズ・コーポレーションダウ・ジョーンズは共に、WSJ のウェブ戦略に関するコメントを辞退した。


後編につづく