ダボス会議、10の論点

     BusinessWeek January 16, 2008
     Ten Talking Points for Davos by Don Tapscott


今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議、1月22〜27日)のテーマは
「Collaborative Innovation(協調的革新)」。
ITの発達、人口動態、ビジネスそして社会は協調して、グローバル経済における
パラダイムの新展開を可能にし、あらゆる制度の深遠な変化を先導している。


いま、企業、政府、教育機関などはステークホルダーのために新しい方法で
能力を統合し、改革し、新しい価値を創造することができる。
協調的革新は、枯渇しつつあるわたしたちの惑星が直面する悩ましい問題への
答えを持っているのかもしれない。


わたしはダボス・フェローの一人として、今年の会議でいくつかの問題点について
ディスカッションするつもりだ。その中から、10の論点について以下に挙げよう。
これらの探究をわたしは切望している;

1-協調的民主主義

民主主義は多くの国で問題を抱えている。
ほとんどの市民は政府の言いなりになっており、主権者として扱われるのは選挙の時だけだ。
そうした現在の民主主義モデルは、ソーシャルコミュニティーに参加して互いに影響し合い、
意識を共有して成長した「ネットジェネレーション」(インターネット世代)には、
ふさわしくないのではないか。
市民を引きつける、どんな新しい民主主義モデルが生まれつつあるのだろうか。

2-ウィキヴァーシティ——協力、学習、教育学、そして学校

現行の学校教育モデルは何世紀もの間、変化していない。
教師一人が中心であり、一方通行で、全員をひとつの型にはめ込む授業が基本だ。
生徒は受容者であり、知的創造者ではない。
もはや新世代の若者——彼らの両親のようにテレビを見てではなく、
オンラインで他者と影響し合って成長した——にとって、
このような教育モデルはふさわしくない。
対話的であり、融通無碍であり、学ぶ者が中心に立つ、協調的な
新しいモデルが生まれつつある。
これに沿って変化する学校、大学、企業の教育プログラムは、
学習におけるブレークスルーを経験するだろう。

3-協調的マーケティング——世界とつながる消費者

共同購入コミュニティー予測市場、株式の先物取引など、市場を拡大するテクノロジーは、
膨大な含み資産とともにその軸足を消費者へと移している。
リーディングカンパニーは、それに応えて何をしているだろうか?
すべてのビジネススクール卒業生とマーケティングマネジャーは、“4つのP”——製品(product)、
価格(price)、流通(place)、プロモーション(promotion)——について学んでいる。
その体系は、単純で一方向的な一元管理に則っている。
企業が消費者に商品を売る。製品を作り、その特徴と利点で価格を決めることがビジネスである。
製品を売る場所と提供するサービスは企業が選び、広告を通じて暴力的にプロモーションを行う
——公共広告、ダイレクトメール、その他の挑戦的な方法で。そのメッセージは企業がコントロールする。
この基本的なマーケティング手法は、変化しただろうか?

4-大規模コラボレーションと気候変動

マーク・トウェインは著作の中で、天気についてこう述べている。
「誰もが話題にするが、誰も何もしない」
それも昔の話だ。わたしたちは、これまで誰も経験したことのない時代の黎明の中にいる。
Web2.0 のおかげで全世界が——全く初めての経験として——ひとつの認識を共有しているのだ。
「気候変動」。初めてわたしたちは、入手可能な、全地球的な、マルチメディアの、
多対多のコミュニケーションシステムを手にし、総意となりつつあるひとつの論点を持った。
気候変動の問題は、あっというまに人々の属性を超え、市民、ビジネス、政府の
いずれもが、いずれ迎える結末に関わっている。
危機を解決するにはすべての国、すべての社会的セクターからのリーダーシップを
必要とすることが、気候変動をめぐる世界の総意となりつつある。
大規模なコラボレーションを一気に普及させるキラーアプリケーションが
——誇張でもなんでもなく——地球を救うことになるのかもしれない。

5-科学分野におけるマインドの邂逅と共同

啓蒙が知的創造の新しい組織的モデルと結びつく時、技術の発展と人口動態が持つパワーが
ウェブを、科学の領域をよりオープンで共同的な試みに変容させる大きな共同ワークスペースへと変える。
あらゆる研究分野、コンピューティングの急速な平易化、そして共同作業にかかるコストの低廉化が、
調査研究活動をネットワークでつなぎ、そのスケールを大きなものへと成長させるのだ。
データの収集、発見の実証、仮説の検証の共同は、それらの作業スピードを速めるだけではない;
多くのより大きな学術界の目を、その検証過程に引きつけることで、科学的知識の正確さを改善している。
マサチューセッツ工科大学の OpenWetWare のようなプロジェクトは、すでにそれを実行しているし、
こうした協調的な科学の新しい時代へと進む道を指し示している。

6-グローバルな市民社会は、人々にパワーを与える

旧来のボーダーの外側にいる人々は、共同活動を組織するツールを、常に指先に携えている。
しかし彼らは、いわゆる「smart mobs(利口な暴徒)」や「wise crowds(賢い群集)」ではない。
それらは、これまでに例のない、新しい社会的変革のムーブメントに取って代わられ、
過去のものとなろうとしている。
それは単に一国内で起こっているのではない。
歴史的に市場や政府とは直接関係のないコミュニティーが求めてきた、企業、政府に次ぐ
第三の柱——the civil society(市民社会)——において生じている動きのことだ。
そうした社会において、ますます「the people(人々)」は境界の向こうで組織され、
グローバルな場面での力と影響を強めている。

7-大規模コラボレーションと悪意

過去の技術的パラダイム——印刷機、放送メディア、中央集積的なコンピューターシステム——は
階層的で、容易に変化せず、中央集権的だった。
そのようなモデルによって、強権的なそれらの所有者に富がもたらされた。
それとは対照的に、Web2.0 は対話的で、サービスを受ける側が豊かになり、支配力は分配される。
このようにして Web2.0 は社会において、善きにつけ悪しきにつけ、厳密な中立性を保つ。
宗教的原理主義者、テロリスト、ハッカー、そして犯罪的ネットワークは、
大規模コラボレーションのパワーを利用して、悪意を増長し、憎むべき行為を犯す。
グローバルなセキュリティーと自由の保障は、この悪意に満ちた力の制御いかんにかかっている。

8-インターネット世代の成長

13歳から29歳という広い世代は、双方向メディアへの情報露出の正当性に、
既存メディアの中で培われてきた“常識”とは異なる考え方を持っている。
彼らはデジタルビットのシャワーを浴びて成長し、テクノロジーを恐れていない。
彼らが労働力となり市場参加者となる時、彼らはあらゆる変革の巨大な力となる。
しかしそうした事態を受け入れる準備が、わたしたちはできているだろうか?
彼らがわたしたちとどのように違うのか、分かっているだろうか?
企業や政府や教育機関は、彼らを受け入れるために、何をすべきだろうか?

9-革命的な透明性

透明性は、革新、成長、成功に利用できる新しい力だ。
ある企業が規律を遵守しているかどうかを知る以上に、企業やステークホルダーがうまくやれるか、
信用できるか、持続可能なビジネスモデルをつくっているかといった適切な情報を明らかにしてくれる。
開かれた企業の従業員には、従業員相互や雇用主との間には——低いコスト、
品質改善、より良い革新、そして忠誠心の結果として——強い信頼関係がある。
透明性はビジネスパートナーシップにとっても極めて重要である——企業間に発生するコストを下げ、
業務提携もスムーズに運ぶ。透明性は顧客との間に信頼関係をつくり出す。
しかし、どうやってこの新世界で勝ち残る?

10-デジタル巨大企業

グーグル、アマゾン、イーベイ、ヤフー、そしてもちろんマイクロソフトといった
デジタルコングロマリット(DC)は、自動車産業から通信産業まで、目の前に横たわる既存産業に、
ビジネス拡張論者として挑戦することで、新しいビジネスの形を見せてくれる。
市場の要請に応えようとして旧来の企業は、過去の遺物や古いテクノロジーから、
きしみを上げるカルチャーや型にはまったビジネスモデルまでが居並ぶハードルに直面する。
いくつかの企業は、ネットの中立性を排除するような、反競争的な防衛策を探る。
しかし、状況に対してより適応性のある企業が勝利者となるだろう:
デジタルコングロマリットは旧来のプレーヤーに、脅威とともに機会をも与えるのだ。
機会を開拓する戦略には、業務提携、買収、DCビジネス商習慣の採用または模倣を含む。


Don Tapscott は BSG Alliance のシンクタンク New Paradigm の共同創業者であり会長。11冊の著書がある。
最新の著作は Anthony D. Williams との共著『Wikinomics: How Mass Collaboration Changes Everything』
(邦題『ウィキノミクス——マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』、日経BP)。
トロント大学ジョセフ・L・ロットマン・スクール・オブ・マネジメントで教鞭を執る。
世界経済フォーラムダボス会議に何度か参加している。