オイルマネーがポスト・オイルを創り出す——理想郷は砂漠に浮かぶ蜃気楼か?


   十分な資金があればやってみたいことのひとつに「まちづくり」があります。
   自分が理想とするまちをつくって、そこで暮らしたい。


   全体のイメージとしては、まち全体が林のよう。
   まん中に森があって、そこから同心円状に住居群が外側へと広がっていく。
   区域内は自動車の乗り入れは禁止して、駐車場は地下につくる。
   自動販売機は置かない、ゴミ箱も吸い殻入れも置かない。


   なんてことを夢想しますが、まあ日本では無理でしょう。
   自分の理想を他人に押しつけるなんて、できないからね。
   やろうと思ったら、独裁者にでもなるしかない。


   緑のある中に住みたいだけなら、田舎へ行くか。
   でも自分は「田舎暮らし」をしたいわけではないし、都市生活者が
   その考え方のまま田舎へ行ったら、田舎の人間がどれだけ迷惑か、
   ということも、田舎出身者として分かる。


   まあ、夢想は夢想で終わるしかないな、だいいち、そんなカネないしね、
   と思っていたのですが、ひょっとしたら
   アブダビがやってくれる、かもしれない、らしい。


   だからといってアブダビへ行こう、と思うわけではないけれど、
   地球上のどこかに、自分の理想に近いまちがある、と思えるのは
   ちょっとステキな感じがします。

だれが「グリーンシティ」をつくるのか

     BusinessWeek December 13, 2007
     Guess Who's Building a Green City by Stanley Reed


アブダビ空港、王族専用ターミナルの向かいに、かつての種苗場がある。
小さく、みすぼらしい木が点在する1600エーカーの砂地には、かつての面影はない。
しかしフェンスに囲まれた一画が、無限の富への野心的なプランをほのめかす。
そこでは、コンクリート板の上で、技術者が太陽熱収集テストの準備を進めている。
その太陽熱収集器は、ペルシャ湾の近くのこの荒れた砂地が10万人都市へと変貌する
エネルギーの供給源となるのだ。
そのゴールは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の、その分子1つすら生成しない
世界最初の都市を建設すること。


オイルとオイルダラーにじゃぶじゃぶと洗われる中東——アブダビだけで
1000億バレル近い埋蔵量がある——が、世界で最初に脱オイルを実現できそうな
地域のひとつとは、なんとも素敵な皮肉ではないか。
ロンドンのフォスター&パートナーズが設計するこのプロジェクトは、
アブダビの、驚くべき逆張りの一手の、まだほんの序章にすぎない。
この首長国は、再生可能で持続的なエネルギー技術に数十億ドルをつぎ込み、
最終的にはオイルの優位性を覆しかねないその技術を的確に後押ししている。


それは実にスマートな計画であると、イニシアティブを取る政府系ファンドのCEOである
スルタン、アル・ジャベールは言う。
最終的には、膨大な埋蔵量を誇るアブダビ原油すら枯渇するのだ。
「いまオイルとガスから得ている収益を、将来われわれにリーダーシップを
もたらすものに投資する。アブダビにとって、それが最良の道だ」


マスダール——アラビア語で“源泉”を意味する——と呼ばれるプロジェクトの
すべての行動は、太陽と繋がっている。建設される都市もまたマスダールと呼ばれ、
アラビアンナイト」と「宇宙家族ジェットソン」を足して2で割ったようだ。
風の塔から戸外の風を取り込み、中庭の噴水によって乾燥した熱い空気が冷やされる。
華氏120度(摂氏49度)にもなるアブダビの夏を効率よく冷やすために、建物は
細い通りに密集する。まるで伝統的なアラブの町だ、いにしえのカスバのように。
しかしマスダールはまた、都市冷却システムと同時に他のシステムを利用できるよう、
最新のテクノロジーを合体させる。アル・ジャベールは言う。
「われわれには最初から、最大のエネルギー効率が標準であることが求められている」


エネルギーは主に太陽エネルギーだ、風力ではない——燃え盛る太陽と
気まぐれな微風が与える論理的帰結として。
都市内部に入るには、乗ってきたフェラーリやポルシェは都市外壁沿いに停めなくてはならない。
内部での移動手段は徒歩か、自転車か、地下の軌道を走る小さな無人トラムである。


アブダビの野心は、このグリーンシティのさらに向こうへと広がる。
投資ファンドを通じて2億5000万ドルを、セグウェイニューハンプシャー州ベッドフォード)、
太陽熱関連メーカーそして廃水処理会社などのクリーンテクノロジーに投資している。
新たに10億ドルの投資も進行中だ。英BPの前CEOであり現在はニューヨークの
プライベート・エクイティ・ファンド、リバーストーン・ホールディングスの
パートナーであるジョン・ブラウンが12月9日、マスダール当局と投資案件の
可能性について討議した。リバーストーンは企業買収の巨人カーライル・グループ
密接に関連しており、カーライルの7.5%はムバダラが所有しており、ムバダラは
アブダビ政府の投資機関であるとともにマスダールの親会社である。


アル・ジャベールは、再生可能エネルギーにおいてアブダビの腕が、
研究から大規模製造業まで、あらゆるところへと伸び広がることを望んでいる。
それが、財力のある投資家を探している代替エネルギー企業をマスダールへと引きつける。
マスダールは間もなく、従来モデルよりも安価な、太陽パネル用薄膜フィルムを製造するための
5億ドルの取引に署名する。2つのプラントが建設される。
ひとつは、グローバルな太陽エネルギー企業としてドイツに、もうひとつはアブダビに。
まず最初は20億ドルのプロジェクトが計画されている。
新しい都市が必要とする300メガワットの太陽エネルギーを供給するためには、
10億ドル以上のコストがかかる。


グリーンシティの独創性はさらに、180万という少ないが急速に成長する人口に
高度な雇用を創出するという長所を持っている。
族長と一族は、世界が地球温暖化と戦うのを援助することがグリーンシティ建設の
不可欠で、崇高な理由であると考えている。
アブダビは、2008年1月下旬に3日間にわたる世界新エネルギーサミットを開催し、
グリーンエネルギーを強調するつもりだ。


眼前には大きな問題も横たわっている。
優秀な科学者、技術者そして起業家をアブダビに呼び寄せられるかどうかだ。
アブダビの貧弱な人口では、技術の前進に依存する工業を発展させるための
頭脳を供給できない。
多くの人的資源の注入なしでは、マスダールの努力も、他のアラブ諸国と同じ結果に
終わってしまう。つまり、ファンシーな建物と、内実がほとんどない中身という結果に。


外部の専門家は、アブダビがうまくやるなら、この実験は大きな、
世界的な成果をもたらすだろうと言う。
サンフランシスコとオレゴン州ポートランドにオフィスを持つコンサルタント企業、
クリーン・エッジの共同創業者ロン・パーニックは、ゼロ・カーボン・シティ建設の
試みからは「多くのことが学ばれる」と言う。
アブダビの果実は、毎年マンハッタンを2つ建設しているのと
同じ速度と規模で拡大している中国に応用できる」


ハメド・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤン皇太子が側近に、眠れるアブダビに活力を与え、
経済を多角化させるアイデアを求めたのが、そもそもの始まりである。2004年のことだ。
イデアには、アブダビと異なり主に金融サービスに投資する隣人であり
ライバルのドバイから横取りすることも、いくらか含まれていた。
この2国間の競争には、根深いものがある。
最近の勝利の1つとして、ドバイでの開催が決まっていた米ポップスター、
ジャスティン・ティンバーレイクのコンサートが、12月7日にアブダビで行われた。
このイベントは、マスダールの親会社がスポンサーとなっている。


アブダビは、その行為で先陣を切るだけではなく、
人的な面でも世界のトップに立つことを望んでいる。
マスダールはすでに、マサチューセッツ工科大学(MIT)の協力を得て、
小さな研究大学マスダール・インスティテュートを設立している。
再生可能テクノロジーを専門とし、新しい都市の、最初に機能する単位となる。
2009年秋、100人の学生と30人の教職員のために、その扉が開かれる。


MITがカリキュラムを開発し、教職員の先頭にはデラウェア大学の前学長
ラッセル・C・ジョーンズが立つ。
ジョーンズは、72歳にして再び大学のトップに立つことを決心した理由について、
「われわれが生きている時代の、最も困難で最も重要な問題に取り組むため」と語った。

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