世界へ売り込む、その前に…


「外務省が」「中国に対抗して」「日本語普及」を図っているようですが、まずその前に
日本人の日本語を、せめて「文筆家」「ライター」「編集者」「校正者」と呼ばれる、
あるいは自称する方々の日本語能力をどうにかせんことには、
ヘンな日本語を世界へ売り込むことになりかねないのではないでしょうか。


「立ち振る舞い」とか「耳障り(耳触り)がよい」とか「ゼロから始める」とか「媒介になる」とか「同行の士」とか
「喧々諤々(ケンケンガクガク)」とか「命を賭ける」とか「同士」を「どおし」、「通り」を「とうり」と読むとか
文語と口語の活用がごっちゃになってるどころか活用自体わけわからんことになってるとか
そもそもアナタ教科書とビジネス書以外読んだことないでしょと言いたくなるよな文章だったりとかとか。


まず上記をはじめとして「日本語」を職業とするひとの日本語能力をランク付けして、
ランクによって原稿料が違う給料が違うメディアで紹介されるときの扱いが違う、
くらいのことは、してもいいんじゃないか。
もっとも、だれがランク付けするのか、というところが最大のネックになりそうですが。


ずっと以前、某メジャーな掲示板で「おまえの考え方では国を守れない、愛国心がない」なんてことを言われて、
たいていの日本人にとって「愛国心がない」「非国民」と言われるのは「偽善者」と言われるのと同じくらい
ショックなことなのでしょうが、自分は普段から、自分は愛国心、愛○心など持ち合わせていないと公言しているので
痛くも痒くもなく、そんなことを書かれてもアラシにもなんにもなってなかったわけですが、
そういう「愛国心」だの「国を守れ」だの言ってるひとの言う「クニ」の定義とは、なんなのか。


「国」「民族」の定義を曖昧にしたまま「クニ」「ミンゾク」を盾にするのは、「憂国の志」などではなく、
ただひたすら己が前に相手を額ずかせようと、その弱点(と思しきところ)をつっ突いているだけでしょう
(まあ、アラシってのは、そういうもんですが)。
そして、そういう方々は概して、日本語を知らない。


故・山本夏彦は「祖国とは国語である」と言っています。


 文部省は日本人は日本語のまっただなかに生れ育っているから、
 教えないでもおぼえると小学生の国語の時間をへらしているが、
 心得ちがいである。
  旧幕のころの遣米使節一行が皆々敬意を表せられたのは
 四書五経のバックボーンがあったからである。彼らは折にふれ
 歌を詠み詩を賦している。芸術ではない、たしなみである。
 言うまでもない最も学ばなければならないのは国語なのである。
 シオランという当代の碩学の言葉を繰返してあげたい。
 (出口裕弘紀伊國屋書店刊)
  ——私たちは、ある国に住むのではない。ある国語に住むのだ。
 祖国とは、国語だ。それ以外の何ものでもない。


    (『完本 文語文文藝春秋所収「祖国とは国語だ」より)


もっとも自分も、文語なんて(読めたとしても)書けやしませんけどね。
夏彦翁の書く日本語も、多く初めて接するものだったり。
だから「愛国心」が育たなかったんでしょう、きっとそうだ。


自分たちの国語をどうするか、ってときによその国と張り合ったってしょうがないでしょうに。
なんも考えずに輸出するのは、マンガ・アニメ、ゲーム、カラオケ、ギュードンくらいで、いいんじゃないでしょうか。
だいいち、記事中にもある通り“「中国語学習熱」が広がって”いるのは“中国経済の拡大”が大きな要因で、
「これから金儲けするには中国だ、中国語だ」という認識が背景にあるからで、経済規模で中国に追い抜かれることが確実な、
そしてマーケットとしての魅力がどんどん薄れていく日本だけでしか通用しない日本語を学ぼうとするなんてのは、
オタクだけなんじゃないですか。
日本国内の事業自体が、日本国内だけを考えていたら先細りなのは目に見えているのだしね。


それにしても「紫式部日本語講座」。
研究者以外のだれが、「紫式部」「源氏物語」を知ってるの。


2007年12月22日mixi日記に若干の変更を加えています)

日本語学習拠点、3年で10倍100拠点に…中国に対抗

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071222it04.htm


 日本語を世界に売り込め――。


 外務省は、海外で日本語を教える拠点を今後3年間に、現在の10か所から約100か所に増やす方針だ。


 来年度予算案に2億1000万円を盛り込み、70か所増やす。中国が中国語教育の「孔子学院」を次々と
設けていることに対抗し、外務省広報文化交流部は「一目で日本語講座とわかる名称を考えたい」としており、
紫式部日本語講座」とするアイデアも検討されている。


 海外の日本語学習人口は2006年時点で133か国・地域の298万人となっている。
1979年当時の約23倍で、03年と比べても約62万人増えているが、今後は伸び悩むと見られている。


 これに対し、中国はこの2年間で「孔子学院」を188か所に設けた。中国経済の拡大で「中国語学習熱」は
広がっており、外務省は「日本語人口の多い東南アジアなども中国語に席巻される」との危機感を募らせている。


 中国以外でも、語学講座のある海外拠点として、フランスが「日仏学院」など950か所、
ドイツが直営の語学教室「ゲーテ・インスティトゥート」を101か所設置するなど、日本を上回っている。


 現在、日本語普及拠点は、外務省所管の独立行政法人国際交流基金」が直営する10か所にとどまっている。
外務省は、施設を新たに設けたり、自前で講師を雇ったりする従来の方式を改め、コンビニエンスストアなどの
店舗拡大に利用される「フランチャイズ方式」を採用する。日本語講座のある大学や民間の日本語学校などに
テキストや学習ノウハウを提供するもので、低予算で拠点を増やすことが可能となる。


 また、外務省は、世界的に人気を集めている日本のアニメやポップカルチャーを紹介できる日本語教師を、
こうした日本語普及拠点に派遣する。来年度はハンガリーブルガリアポーランドルーマニアに30人を派遣する。
(2007年12月22日14時33分 読売新聞)